2025.10.12
【2025年育児介護休業法改正】柔軟な働き方を実現するための措置とは?運用上のポイントを社労士が解説
2025年育児介護休業法改正で何が変わる?
2025年10月1日、育児介護休業法改正が施行されました。この改正では、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、企業が「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが新たに義務化されています。
現行法では3歳未満の子を持つ労働者への支援が中心でしたが、保育園の送迎や子どもの急な発熱対応など、3歳以降も仕事と育児の両立には多くの課題があります。2025年育児介護休業法改正は、こうした実態を踏まえた重要な法改正です。
経営者の皆様は、この改正に対応した就業規則の整備や制度設計が必要となります。本コラムでは、柔軟な働き方を実現するための措置の具体的内容と、運用上のポイントを詳しく解説します。
柔軟な働き方を実現するための措置とは?基本の5つの選択肢
2025年育児介護休業法改正により、事業主は以下の5つの措置から2つ以上を選択して導入する義務があります。また、措置を選択する際には、過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります。
1. 始業時刻等の変更(時差出勤・フレックスタイム制)
柔軟な働き方を実現するための措置として最も導入しやすいのが、始業・終業時刻の変更です。1日の所定労働時間を変更しないことを前提として、以下のいずれかの措置を講じます。
- ・フレックスタイム制
- ・始業または終業の時刻を繰り上げまたは繰り下げる制度(時差出勤の制度)
具体例:
・始業時刻を午前7時~10時の範囲で選択可能
・終業時刻を午後4時~7時の範囲で選択可能
・30分または1時間単位での調整
・保育園の送迎時間に合わせた勤務が可能になり、フルタイム勤務を維持しながら育児との両立が図れます。
2. テレワーク等(月10日以上)
在宅勤務やサテライトオフィス勤務など、事業場以外での勤務を認める制度です。1日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるものとし、原則として時間単位での利用も可能にする必要があります。
通勤時間の削減により育児時間を確保できるため、柔軟な働き方を実現するための措置として従業員からのニーズが高い選択肢です。
運用上のポイント:
・月10日以上の利用を保証する制度設計
・時間単位での利用を可能にする仕組み
・セキュリティ対策の整備
・業務管理・評価方法の明確化
3. 保育施設の設置運営等
保育施設の設置・運営その他これに準ずる便宜の供与をするものです。ベビーシッターの手配および費用負担なども含まれます。
ただし、中小企業では費用面のハードルが高いため、他の措置との組み合わせを検討することが現実的です。
4. 養育両立支援休暇の付与(年10日以上)
年次有給休暇とは別に、就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇を設ける制度です。1日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるものとし、原則として時間単位での取得も可能にする必要があります。
具体例:
・年間10日(子が2人以上の場合も10日以上)
・時間単位・半日単位での取得可能
・子の行事参加、通院付き添い等に利用可能
・柔軟な働き方を実現するための措置として、時間単位での取得を可能にすることで利便性が高まります。
5. 短時間勤務制度
1日の所定労働時間を短縮する制度です。3歳未満の子を養育する労働者への短時間勤務制度(原則6時間)とは異なり、3歳以上就学前については、企業が実情に応じて柔軟に設定することができます。例えば、7時間勤務や6時間半勤務など、自社に適した時間設定が可能です。
なお、既に3歳未満向けに設けている6時間の短時間勤務制度を就学前まで延長して適用することも、この措置の選択肢として認められます。
2025年育児介護休業法改正における運用上のポイント
ポイント1:従業員の希望に配慮した措置の選択
2025年育児介護休業法改正では、単に2つ以上の措置を導入するだけでなく、労働者が事業主の講じた措置の中から1つを選択して利用できるようにする必要があります。
運用上のポイントとして、職種や部門の特性を考慮し、実質的に選択可能な措置を組み合わせることが重要です。例えば、製造部門にテレワークのみを提示しても、実際には利用できないため、時差出勤や養育両立支援休暇との組み合わせが適切です。
厚生労働省の指針では: 事業主が講じた措置について、労働者の職種や配置等から利用できないことがあらかじめ想定できる措置を講じても、義務を果たしたことにはなりません。
ポイント2:過半数組合等からの意見聴取
柔軟な働き方を実現するための措置を選択する際には、過半数組合等からの意見聴取の機会を設けることが義務付けられています。
運用上のポイントとして、労使間のコミュニケーションを十分に取り、従業員のニーズを把握した上で措置を決定することが重要です。
ポイント3:個別の周知・意向確認の実施
3歳未満の子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期(子の3歳の誕生日の1か月前までの1年間、つまり1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)に、以下の事項について個別に周知と意向確認を行う必要があります。
周知事項:
1.事業主が選択した対象措置(2つ以上)の内容
2.対象措置の申出先(例:人事部など)
3.所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度
周知・意向確認の方法:
・面談(オンライン面談も可)
・書面交付
・FAX(労働者が希望した場合のみ)
・電子メール等(労働者が希望した場合のみ)
運用上のポイント: 利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。制度の趣旨を理解し、従業員が安心して利用できるよう配慮が必要です。
ポイント4:就業規則の整備と周知徹底
柔軟な働き方を実現するための措置を導入する際、就業規則または育児・介護休業規程の改定が必須です。運用上のポイントとして、以下の項目を明確に規定しましょう。
- ・対象者の範囲
- ・措置の具体的内容(月10日以上、年10日以上などの要件を含む)
- ・申出の手続きと期限
- ・利用期間と更新の可否
- ・業務都合による調整ルール
ポイント5:不利益取扱いの防止
2025年育児介護休業法改正に対応する際、運用上のポイントとして最も注意すべきなのが、措置の申出や利用を理由とした不利益取扱いの禁止です。
禁止される不利益取扱いの例:
・解雇、雇止め
・降格、減給
・人事評価での不当な低評価
・配置転換(本人の同意なし)
・育児ハラスメント
ポイント6:管理職の理解と協力体制
柔軟な働き方を実現するための措置を円滑に運用するには、管理職の理解が不可欠です。運用上のポイントとして、以下の教育・研修を実施しましょう。
- ・法改正の趣旨と内容の理解
- ・ハラスメント防止
- ・措置利用者の業務管理方法
- ・公平な人事評価の実施方法
ポイント7:業務体制の調整
複数の従業員が同時期に措置を利用する場合、業務への影響が懸念されます。運用上のポイントとして、事前に以下を検討しておきましょう。
- ・業務の優先順位付け
- ・代替要員の確保方法
- ・業務の標準化・マニュアル化
- ・チーム内での情報共有体制
2025年育児介護休業法改正への実務対応ステップ
ステップ1:現状分析とニーズ調査
柔軟な働き方を実現するための措置を選定する前に、対象従業員数、現在の勤務形態、職種別の特性を把握しましょう。従業員アンケートを実施し、どの措置へのニーズが高いかを確認することが運用上のポイントです。
ステップ2:過半数組合等との協議
分析結果をもとに、過半数組合等と協議を行い、自社に適した措置を2つ以上選定します。運用上のポイントとして、全職種で実質的に選択可能な組み合わせを検討しましょう。
ステップ3:規程整備と社内手続き
就業規則の改定案を作成し、従業員代表の意見聴取、労働基準監督署への届出を行います。
ステップ4:個別周知の準備
対象となる労働者(1歳11か月から2歳11か月の子を持つ従業員)に対する個別周知・意向確認の体制を整えます。
ステップ5:全体周知と運用開始
全従業員への制度周知を徹底し、運用を開始します。定期的に利用状況を確認し、必要に応じて改善を図ります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「柔軟な働き方を実現するための措置」の施行前に個別周知などは必要ですか?
A. 個別周知・意向確認の義務は2025年10月1日から施行されています。子が1歳11か月から2歳11か月の間に実施する必要があります。
Q2. テレワークや養育両立支援休暇は必ず時間単位での取得を可能にする必要がありますか?
A. はい。テレワーク等と養育両立支援休暇については、原則として時間単位での利用・取得を可能にする必要があります。
Q3. 保育施設は事業所ごとに設置する必要がありますか?
A. 必ずしも事業所ごとに設置する必要はありません。複数の事業所で共同利用できる施設や、企業主導型保育事業への参画、ベビーシッター費用の負担なども認められます。
Q4. 短時間勤務制度は必ず6時間勤務にしなければなりませんか?
A. いいえ、必ずしも6時間である必要はありません。3歳以上就学前の子を養育する労働者への短時間勤務制度については、企業が実情に応じて柔軟に時間を設定することができます。例えば、7時間勤務や6時間半勤務など、自社に適した時間設定が可能です。なお、「原則6時間とする措置を含むもの」という表現は、3歳未満向けに既に設けている6時間短時間勤務制度を就学前まで延長適用する場合も、この措置の選択肢として認められることを示しています。
まとめ:2025年育児介護休業法改正を企業成長の機会に
2025年育児介護休業法改正による柔軟な働き方を実現するための措置は、企業にとって対応負担となる面もありますが、人材確保・定着、従業員満足度向上、企業イメージ向上につながる重要な機会です。
運用上のポイントを押さえた適切な制度設計により、法令遵守と企業競争力強化の両立が可能です。特に以下の点に注意して対応を進めましょう。
重要な運用上のポイント(まとめ):
- ・5つの措置から2つ以上を選択して導入する
- ・テレワークを選択する場合は月10日以上、養育両立支援休暇を選択する場合は年10日以上の要件を満たす
- ・テレワークまたは養育両立支援休暇を選択する場合は、時間単位での利用・取得を原則可能にする
- ・過半数組合等からの意見聴取を実施する
- ・個別周知・意向確認を適切な時期に行う
- ・実質的に選択可能な措置を組み合わせる
少子化が進む中、育児支援に積極的な企業は求職者から選ばれる時代となっています。柔軟な働き方を実現するための措置の導入、就業規則の整備、運用上のポイントについてお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。貴社の実情に合わせた最適な対応方法をご提案いたします。