2025.10.05
10月の給与計算から要対応!社会保険料の定時決定、標準報酬月額変更後の実務ポイント
人事・労務ご担当者の皆様、こんにちは。松木労務管理事務所です。
7月の「算定基礎届」の提出、大変お疲れ様でした。皆様のお手元にも、日本年金機構から「標準報酬月額決定通知書」が届いている頃かと存じます。
さて、手続きを終えて一安心、というところですが、定時決定の業務はまだ完了していません。むしろ、これからが給与計算ご担当者様にとっての正念場です。決定された新しい社会保険料を、いつから、どのように給与計算へ反映させるか。この最終ステップこそが、従業員の生活に直接影響を与える非常に重要な実務となります。
今回のコラムでは、算定基礎届の提出を終えたいま、ご担当者様が取り組むべき「給与計算への反映」にテーマを絞り、具体的な業務フローと注意点を解説いたします。
1. 最重要ポイント:「保険料はいつの給与から変わるのか?」
まず、最も重要な控除のタイミングを再確認しましょう。
7月の定時決定で決まった新しい標準報酬月額は、「9月分」の社会保険料から適用されます。そして、社会保険料は前月分を翌月の給与から控除する「翌月徴収」が原則です。つまり、「9月分の社会保険料」は「10月に支払われる給与」から控除します。多くの企業様では、まさに今月支払う給与から、従業員一人ひとりの保険料が変わることになります。
ただし、これはあくまで一般的な「翌月徴収」の場合です。社会保険料の徴収タイミングは、会社の給与規程によって定められています。まれに「当月徴収」のルールを設けている企業もあり、その場合は9月支給の給与から変更されているはずです。今一度、自社の給与規程をご確認いただき、正しい控除月を把握することが、全ての業務の前提となります。
2. 決定通知書が届いてから給与計算までの実務フロー
新しい保険料を正確に給与へ反映させるため、以下のステップで業務を進めましょう。
Step1:「標準報酬月額決定通知書」の内容を必ず確認
日本年金機構から通知書が届いたら、すぐにファイリングするのではなく、必ず中身を確認してください。届出内容と相違がないか、対象となる従業員の氏名、改定後の標準報酬月額、そして健康保険と厚生年金の等級をチェックします。万が一、記載内容に誤りや不明な点があれば、速やかに管轄の年金事務所へ問い合わせましょう。
Step2:給与計算ソフト(システム)の設定を更新
ここが最も重要な作業です。従業員一人ひとりについて、新しい標準報酬月額(または等級)を給与計算ソフトに正確に登録します。
このとき、「適用開始月」を正しく設定することが肝心です。多くの給与計算ソフトでは、「9月分の社会保険料から適用」といった形で設定することで、10月支給の給与計算時に自動で新保険料が適用される仕組みになっています。設定ミスは給与の誤り(過徴収・徴収漏れ)に直結しますので、複数人でのダブルチェックを強く推奨します。
Step3:従業員への丁寧な事前告知
給与計算の設定変更と並行して、従業員の皆様へ保険料改定のアナウンスを行いましょう。10月の給与明細を見て「手取り額が変わった」と疑問に思う方は少なくありません。
事前に「社会保険料の定時決定(年に一度の見直し)により、10月支給の給与から健康保険・厚生年金保険料が変更になります」といった旨を、社内掲示板やメールなどで通知しておくことが大切です。
「この見直しは、皆様の4月から6月の給与支払実績に基づいて公平に決定される制度です」と一言添えることで、従業員の皆様の納得感が高まり、給与計算ご担当者様への問い合わせ対応の負担軽減にも繋がります。
3. 給与反映時に注意したいケース
最後に、特に注意が必要なケースを2点ご紹介します。
9月中に退職した従業員
定時決定の対象者(7月1日時点の在籍者)が9月30日付で退職した場合、資格喪失日は10月1日となり、9月分の社会保険料まで徴収義務があります。この9月分の保険料は、改定後の新しい標準報酬月額で計算し、最後の給与から控除する必要があるため、退職者の設定変更漏れがないよう特にご注意ください。
年齢によって保険料が変わる従業員
定時決定による保険料改定と同時に、年齢到達による変更が重なる場合があります。具体的には、40歳に到達した従業員の介護保険料の徴収開始、65歳に到達した従業員の介護保険料の徴収終了です。これらの変更も、給与計算システムへ正確に反映させる必要があります。
まとめ
社会保険料の定時決定は、算定基礎届を提出して終わりではありません。決定された内容を正確に給与計算に反映させ、従業員へ適切に周知するまでが、一連の重要な業務です。特に「システム設定の更新」と「従業員への事前告知」は、円滑な運用を実現するための両輪と言えるでしょう。
これから年末調整など多忙な時期を迎えますが、まずは今月の給与計算を正確に行うことが大切です。もし実務でご不明な点があれば、社会保険労務士にご相談ください。