2025.10.03
2025年キャリアアップ助成金とは?正社員化コースを解説
「社内のパートタイマーや契約社員に、もっと活躍してほしい」「優秀な人材を正社員として確保したいが、人件費の増加が心配…」 このようなお悩みをお持ちの中小企業の経営者様、人事担当者様は多いのではないでしょうか。
その課題を解決する強力な味方となるのが、厚生労働省のキャリアアップ助成金です。特に、非正規雇用の従業員を正社員に転換する際に活用できる「正社員化コース」は、多くの企業で利用されています。
この記事では、2025年に向けてキャリアアップ助成金の活用を検討している方のために、制度の概要から最も人気の「正社員化コース」の詳細、申請の流れ、注意点まで、専門家が分かりやすく解説します。最新の変更点も踏まえて、自社で助成金がもらえるか、いくらもらえるのかを確認しましょう。
2025年キャリアアップ助成金の概要と変更点
まずは、キャリアアップ助成金がどのような制度なのか、そして2025年に向けて知っておくべき最新の変更点を確認しましょう。
キャリアアップ助成金とは?制度の目的
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成される制度です。
この制度の主な目的は以下の2つです。
- 労働者の意欲・能力の向上: 従業員が将来に希望を持って働ける環境を整え、スキルアップを支援します。
- 事業の生産性向上と優秀な人材の確保: 従業員の定着率を高め、企業の成長に繋がる優秀な人材を確保・育成します。
つまり、従業員の待遇を良くすることで、結果的に会社の成長にも繋げる、という好循環を生み出すための支援策なのです。 (参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金」)
2025年度の主な変更点まとめ
2025年度(令和7年度)からキャリアアップ助成金に重要な変更が加わりました。特に注目すべきは、「重点支援対象者」という新しい区分の導入です。ここでは、2025年度の主な変更点をまとめました。
- 「重点支援対象者」区分の新設 2025年4月以降、正社員化コースでは対象労働者を「重点支援対象者」と「左記以外」に分類し、支給額が異なるようになりました。重点支援対象者に該当する場合は80万円(中小企業、有期→正規)、該当しない場合は40万円となります。
- 正社員化コースの助成額の変更 2024年度は一律80万円(中小企業、有期→正規)でしたが、2025年度からは対象労働者の属性により40万円から80万円に分かれます。
- 対象労働者の要件 転換前に「6か月以上」の雇用期間があれば対象となります。これにより、勤続3年を超える有期雇用労働者も対象に含められます。
- 「有期→無期」転換区分の廃止 正社員化コースの中にあった「有期雇用から無期雇用への転換」の区分は、2025年3月31日をもって廃止されました。2025年4月以降は、有期雇用から「正規雇用」への転換のみが助成対象となります。
これらの変更は、政府がより一層、特定の属性を持つ非正規雇用労働者の正規雇用化を重点的に推進していることの表れです。
対象となる全7コース一覧
キャリアアップ助成金には、正社員化コース以外にも様々なコースがあります。自社の課題に合わせて活用を検討しましょう。
- 正社員化コース 有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換または直接雇用する。
- 賃金規定等改定コース 非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を改定し、3%以上増額させる。
- 賃金規定等共通化コース 非正規雇用労働者と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用する。
- 賞与・退職金制度導入コース 非正規雇用労働者を対象に、賞与または退職金制度を新たに導入し、支給または積立てを行う。
- 短時間労働者労働時間延長コース 短時間労働者の週所定労働時間を延長し、社会保険を適用させる。
- 社会保険適用時処遇改善コース 短時間労働者について、手当支給・賃上げ・労働時間延長等により、新たに社会保険の適用対象とする。
- 障害者正社員化コース 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する。
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正社員化コースを分かりやすく解説
ここからは、最も利用件数が多く、関心の高い「正社員化コース」について、誰が対象で、どのような条件を満たせばよいのかを詳しく見ていきましょう。
対象となる事業主の条件
まず、助成金を受け取る側である事業主(会社)が満たすべき主な条件は以下の通りです。
- ・雇用保険適用事業所の事業主であること 雇用保険に加入していることが大前提です。
- ・キャリアアップ管理者を配置していること 助成金の手続きや計画の進行を管理する担当者を社内で決めておく必要があります。
- ・キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の認定を受けていること どのような取り組みを行うかを記した「キャリアアップ計画書」を事前に提出・
し、認定を受ける必要があります。 - ・対象労働者の労働条件、賃金、労働時間などを定めた就業規則があること 正社員転換に関するルールを就業規則等に明確に定めている必要がありま
す。 - ・労働保険料を滞納していないこと 過去2年間、労働保険料の滞納がないことが求められます。
対象となる労働者の条件
次に、正社員に転換される労働者側が満たすべき主な条件です。
- ・転換前に事業主の事業所で6か月以上雇用されている有期または無期雇用労働者であること 2025年度からは、雇用期間の上限が撤廃され、勤続3年を超える有期雇用労働者も対象となります。
- ・正規雇用労働者として雇用されることを約束して雇われた労働者ではないこと 最初から正社員になることが決まっていた場合は対象外です。
- ・新規学卒者で雇入れ日から起算して1年未満の者ではないこと 新卒採用後1年未満の転換は対象外となります。
- ・事業主または取締役の3親等以内の親族ではないこと 同族経営における親族の登用は対象外となります。
- ・転換後、雇用保険の被保険者であること 正社員として雇用保険に加入することが必要です。
重点支援対象者とは?
2025年度から新設された「重点支援対象者」は、助成額が最も高い区分です。以下のいずれかに該当する有期雇用労働者が重点支援対象者となります。
a. 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
長期間にわたり有期雇用で働いている従業員を正社員化する場合、重点的に支援されます。
b. 雇入れから3年未満で、次の①②いずれにも該当する有期雇用労働者
- ① 過去5年間に正規雇用労働者であった期間が1年以下
- ② 過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
つまり、正社員経験が少ない、またはブランクがある方が対象となります。
c. 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定訓練修了者
派遣社員や、特別な支援が必要な属性の労働者も重点支援対象者に含まれます。
有期雇用から正規雇用への転換
これは、契約社員やパートタイマーなど、期間の定めのある雇用契約で働いている従業員を、期間の定めのない正社員に転換するケースです。最も一般的で、助成額も高く設定されています。
無期雇用から正規雇用への転換
これは、期間の定めのない雇用契約(無期雇用)で働いているパートタイマーなどを、正社員に転換するケースです。例えば、「定年まで働けるパートタイマー」を正社員にする場合などが該当します。
助成額はいくら?支給額と加算措置
「具体的に、一人あたりいくらもらえるの?」というのは最も気になるポイントでしょう。ここでは、正社員化コースの支給額と、さらに金額がアップする加算措置について解説します。
正社員化コースの支給額一覧(2025年度)
2025年度からは、対象労働者が「重点支援対象者」に該当するかどうかで支給額が大きく変わります。
中小企業の場合
転換パターン:有期雇用から正規雇用
・重点支援対象者:80万円
・左記以外:40万円
転換パターン:無期雇用から正規雇用
・重点支援対象者:40万円
・左記以外:20万円
重点支援対象者に該当する場合、中小企業が有期雇用の従業員を1人正社員にするだけで80万円が支給されるため、非常に大きな支援と言えます。一方、重点支援対象者に該当しない場合は40万円となりますので、対象労働者の要件確認が重要です。
賃金アップや制度導入による加算措置
上記の基本額に加えて、特定の取り組みを行うことで助成額が加算されます。主な加算措置は以下の通りです。
- 正社員転換制度を新たに規定した場合
正社員転換制度を新たに就業規則に規定し、その制度に基づいて転換した場合、1事業所あたり20万円(大企業の場合15万円)が加算されます。 - 多様な正社員制度の導入
勤務地限定・職務限定・短時間正社員といった「多様な正社員制度」を新たに規定し、その制度に転換させた場合に1事業所あたり40万円(大企業の場合30万円)が加算されます。 - 賃金3%以上の増額
正社員転換後の賃金を、転換前の賃金より3%以上増額させていることが支給の必須要件となります。
支給対象期間と上限人数
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給申請ができる人数には上限があります。
- 支給申請の上限人数 1年度(4月1日~翌3月31日)に1つの事業所が申請できるのは20人までです。
- 支給対象期間 助成金の支給は、対象労働者1人につき1回限りです。
申請から受給までの流れとスケジュール
助成金を受給するには、正しい手順とスケジュール管理が不可欠です。特に期限を1日でも過ぎると申請できなくなるため、注意が必要です。
ステップ1:キャリアアップ計画書の作成・提出
提出期限
正社員への転換を実施する日の前日まで
やること
まず、「いつまでに、誰を、どのようにキャリアアップさせるか」という 「キャリアアップ計画書」を作成 します。この計画書を、管轄の労働局またはハローワークに提出し、認定を受ける必要があります。これがすべてのスタートです。
ステップ2:就業規則の改定と正社員転換の実施
実施時期
キャリアアップ計画の認定後、実際に転換する日まで
やること
正社員への転換制度を就業規則に明記し、労働基準監督署へ届け出ます。その就業規則に基づいて、対象となる従業員と合意の上で雇用契約を結び直し、正社員としての勤務を開始します。
ステップ3:転換後6ヶ月分の賃金支払い
期間
正社員転換後、6か月間
やること
正社員として転換した後、6か月間継続して雇用し、その間の賃金を支払います。この際、転換後の賃金が転換前の6か月間の賃金に比べて3%以上増額していることが必須条件です。
ステップ4:支給申請と助成金の受給
提出期限
6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内
やること
上記のステップをすべて満たしたら、管轄の労働局またはハローワークに「支給申請書」と必要書類を提出します。審査には数か月かかりますが、無事に承認されれば指定した口座に助成金が振り込まれます。
申請の注意点と必要書類
申請で失敗しないために、特に注意すべきポイントと必要書類を確認しておきましょう。
申請前に確認すべき共通の支給要件
以下の項目に当てはまらないか、必ず事前にチェックしてください。一つでも該当すると不支給となる可能性があります。
- 労働保険料を滞納しているか?
- 過去に助成金の不正受給をしたことがあるか?
- 申請日の前日から起算して6か月前の日から支給決定日までの間に、事業主都合による従業員の解雇等を行っていないか?
- 労働関係法令に違反していないか?
キャリアアップ計画提出時の注意点
- 提出期限は絶対に守る 計画書の提出は、転換実施日の前日までです。事後提出は一切認められません。
- 計画内容と実施内容を一致させる 提出した計画書通りの取り組みを行わないと、助成金の対象外となります。
- 記載漏れや押印漏れに注意 書類の不備で受理されないケースも多いため、提出前に入念に確認しましょう。
支給申請に必要な書類一覧
支給申請時には多くの書類が必要となります。事前に準備を進めておきましょう。(一部抜粋)
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 正社員化コース内訳
- 対象労働者の転換前後の雇用契約書または労働条件通知書
- 対象労働者の転換前6か月分と転換後6か月分の賃金台帳
- 対象労働者の転換前6か月分と転換後6か月分の出勤簿またはタイムカード
- 就業規則(転換制度の規定がわかる改定前と改定後のもの)
- その他、労働局が求める書類
※必要書類は変更される可能性があるため、必ず管轄の労働局のホームページ等で最新情報をご確認ください。
キャリアアップ助成金のよくある質問
最後に、経営者や人事担当者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
助成金は誰がもらえる?対象者を再確認
「助成金は、正社員になった従業員がもらえるのですか?」という質問をよく受けますが、これは誤解です。 キャリアアップ助成金は、従業員のキャリアアップに取り組んだ事業主(会社)に対して支給されるものです。従業員個人に直接支払われるわけではありません。
申請はいつまで?提出期限について
申請には2つの重要な期限があります。
- キャリアアップ計画書 転換を実施する前日まで
- 支給申請書 転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内
どちらの期限も非常に厳格なため、スケジュール管理を徹底しましょう。
派遣社員を直接雇用する場合も対象?
はい、対象になります。 自社で受け入れている派遣社員を、派遣期間終了後などに正社員として直接雇用する場合も、正社員化コースの対象となります。また、派遣労働者は「重点支援対象者」に該当するため、中小企業の場合、有期から正規への転換で80万円の助成を受けることができます。
2回目以降の申請は可能ですか?
はい、可能です。 キャリアアップ助成金は、要件を満たせば何度でも活用できます。ただし、前述の通り、1つの事業所が1年度に申請できる上限人数は20人までと定められています。
重点支援対象者に該当するか判断が難しい場合は?
対象労働者が重点支援対象者に該当するかどうかは、支給額に直結する重要なポイントです。判断が難しい場合は、キャリアアップ計画書を提出する前に、管轄の労働局またはハローワークに事前相談することをおすすめします。また、社会保険労務士などの専門家に相談することも有効です。
まとめ
今回は、2025年度の「キャリアアップ助成金」について、特に人気の「正社員化コース」を中心に解説しました。
この記事のポイントをまとめます。
- ・キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行う事業主を支援する制度である。
- ・2025年度から 「重点支援対象者」区分が新設 され、該当する場合は中小企業で最大80万円、該当しない場合は40万円となった。
- ・重点支援対象者には、雇入れから3年以上の有期雇用労働者、正社員経験が少ない労働者、派遣労働者などが含まれる。
- ・申請には 「キャリアアップ計画書の事前提出」と「転換後6か月の賃金支払い」 が必須。
- ・提出期限の厳守が何よりも重要。計画的な準備が成功の鍵となる。
・キャリアアップ助成金は、人件費の負担を抑えながら優秀な人材を確保し、従業員の満足度と定着率を高めるための非常に有効な手段です。ただし、2025年度からは対象労働者の属性により支給額が異なるため、事前に重点支援対象者に該当するかどうかを確認することが重要です。
自社の成長戦略の一環として、ぜひ積極的な活用をご検討ください。より詳細な要件の確認や申請手続きに不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することもおすすめです。早めに情報収集を始め、計画的に準備を進めていきましょう。