2025.07.15
役員賞与の事前確定届出給与と社会保険の実務ポイント
社会保険労務士として多くご相談いただく案件
「今期は業績が好調なので、役員に賞与を支給したいのですが…」 「役員賞与を支給すると、社会保険はどうなりますか?」
社会保険労務士として日々企業の人事労務相談をお受けする中で、このような役員賞与に関するご質問を数多くいただきます。
役員賞与を適切に支給するためには、税務上の「事前確定届出給与」制度と、社会保険上の取扱いの両方を正しく理解する必要があります。今回は社会保険労務士の視点から、実務で重要となるポイントを解説いたします。
事前確定届出給与制度とは
事前確定届出給与制度は、役員への賞与支給における恣意性を排除し、適正な損金算入を可能にする制度です。
通常、役員賞与は経営判断により金額が決定されるため、法人税法上は損金として認められません。しかし、事前に株主総会等で決議し、税務署へ届出を行うことで、透明性が確保され、損金算入が認められます。
制度活用の注意点
この制度について「節税策」として紹介されることがありますが、これは誤解です。
正しい理解
- 会社:法人税の課税対象から除外
- 役員個人:所得税・住民税の課税対象
- 全体としての税負担は基本的に変わらず、税負担の主体が移るだけ
実務上重要な手続きと期限管理
手続きフローと期限
実務では、以下のスケジュール管理が重要です
- 株主総会開催日の確定
- 決議から1か月以内の届出書提出(税務署への手続き)
- 支給予定日の社内カレンダー登録
- 支給月の給与計算準備
社会保険への影響
社会保険料の計算と上限
役員賞与には以下の社会保険料がかかります
- 健康保険料・介護保険料(40歳以上65歳未満)
- 厚生年金保険料
- ※雇用保険は対象外
標準賞与額の上限
- 健康保険:年度累計573万円
- 厚生年金保険:支給1回につき150万円
この上限制度は、企業の人件費最適化の重要な要素となります。
在職老齢年金への影響
年金受給世代の役員への重要な影響があります。
基本的な仕組み
- 毎月の給与と年金月額の合計が基準額を超えると年金減額
- 賞与も年収換算して計算に含まれる
- ただし、標準賞与額の上限を超えた部分は計算対象外
この制度の特徴を理解した上で適切な報酬設計を行うことで、年金が満額支給となるケースがあります。
賞与支払届の提出
役員賞与を支給した場合、「被保険者賞与支払届」の提出が必要です。
- 提出期限:支給日から5日以内
- 提出先:年金事務所または健康保険組合
まとめ
事前確定届出給与制度は、適切に活用すれば役員報酬の柔軟な設計が可能となる有用な制度です。しかし、税務・社会保険の両面で厳格な要件があるため、専門的な知識と丁寧な実務対応が不可欠です。
社会保険労務士として重要と考えるポイント
- 制度の正確な理解(節税ではなく適正な損金算入)
- 社会保険料負担の事前シミュレーション
- 在職老齢年金への影響の検討
- 確実な期限管理と手続き実行
制度の活用をご検討の際は、税理士と社会保険労務士の両方の専門家にご相談いただき、税務・社会保険の両面から最適な制度設計を行うことが重要です。
※税務上の詳細な取扱いや届出書の作成・提出手続きについては、必ず顧問税理士にご確認ください。