2025.06.22
賃上げが会社を強くする―業務改善助成金という成長戦略
令和7年の今、多くの経営者が人件費の上昇に頭を悩ませています。最低賃金は上がり続け、優秀な人材の確保は年々難しくなっている。設備投資で生産性を上げたくても、資金繰りの不安が付きまとう。こうした悩みは、もはや中小企業経営の宿命のようにさえ思えます。
しかし、この「ピンチ」を「チャンス」に変える方法があるとしたらどうでしょうか。それが業務改善助成金の戦略的活用です。
賃上げが投資を呼び込む逆転の発想
従来、賃上げはコスト増加要因として捉えられてきました。しかし業務改善助成金は、この常識を180度転換させます。従業員の賃金を引き上げることで、国から最大600万円もの設備投資資金を獲得できるのです。しかも助成率は最大80%。例えば、500万円の最新設備を、企業内最低賃金1,000円の事業場なら助成率75%が適用され、実質125万円の自己負担で導入できることになります。
ある飲食店経営者の話をご紹介しましょう。従業員15名の店舗で慢性的な人手不足に悩んでいた彼は、営業時間の短縮を余儀なくされていました。そこで思い切って時給を90円引き上げ、同時にPOSレジとオーダーシステムを導入。結果、作業効率は2倍に向上し、営業時間を元に戻すことができました。売上は前年比130%を達成し、さらに驚くべきことに残業代は月30万円も削減できたのです。投資額400万円のうち300万円が助成され、実質100万円の投資で経営が一変したと彼は語ります。
見えない利益が生まれる仕組み
賃上げの効果は、直接的な生産性向上だけではありません。「従業員を大切にする会社」としての評判は、採用市場で絶大な力を発揮します。求人への応募が2倍、3倍に増えることも珍しくありません。さらに重要なのは離職率の低下です。
従業員一人の採用と教育にかかるコストは、平均して100万円を超えます。ある製造業では、60円の賃上げと自動化設備の導入により、若手従業員の定着率が90%を超えました。これは年間500万円ものコスト削減に相当します。つまり、賃上げによる人件費増加を、見えないコスト削減が上回るという現象が起きているのです。
効率化設備で競争力を一気に向上
令和7年度の業務改善助成金の大きな魅力は、幅広い設備・機器が対象となることです。自動化機械、POSシステム、業務用ソフトウェア、さらには冷凍冷蔵庫のような業務改善につながる設備まで、多岐にわたって支援を受けることができます。
ある運送会社の事例をご紹介しましょう。従業員12名のこの会社では、配送ルートの非効率さと長時間労働が深刻な課題でした。そこで60円の賃上げとともに、車両運行管理システムと配送最適化ソフトを導入。結果として、配送時間は平均25%短縮され、燃料費も月15万円削減できました。何より、従業員の労働環境が大幅に改善し、新たな人材の確保にも成功。投資額280万円のうち210万円が助成され、わずか70万円の負担で経営体質が劇的に変化したのです。
設備投資による業務効率化は、単なるコスト削減を超えた価値を生み出します。それは従業員の働きやすさの向上であり、顧客サービスの質の向上でもあるのです。
なぜ今なのか、その理由
令和7年度の業務改善助成金には、申請を検討すべき2つの理由があります。
第一に、予算が大幅に確保され、多くの企業が活用できる環境が整っていること。第二に、第2期申請期間(6月14日から地域別最低賃金改定日前日まで)という絶好のタイミングであること。第1期は既に終了しましたが、第2期なら十分な準備期間を確保でき、地域別最低賃金の改定に合わせた自然な賃上げが可能です。
特に注目すべきは、今年も10月に地域別最低賃金の大幅な引き上げが見込まれていることです。最低賃金の改定は避けて通れない現実ですが、10月の改定を待つのではなく、第2期申請を活用して数ヶ月早めに企業内最低賃金を引き上げることで、助成金という形で設備投資の原資を確保できます。つまり、いずれ実施することになる賃金引き上げのタイミングを戦略的に前倒しすることで、投資資金を獲得しながら従業員満足度も向上させる、一石二鳥の効果を得られるのです。
成功への道筋は意外にシンプル
業務改善助成金の活用は、実は思っているよりシンプルです。まず確認すべきは3つ。最も給与の低い従業員の時給、6か月以上勤務している従業員の数、そして導入したい設備やシステムの見積もりです。
例えば、時給1,000円の従業員5名を45円引き上げ、300万円の設備投資を実施する場合を考えてみましょう。30人未満の事業場なら助成上限額は110万円、事業場内最低賃金が1,000円なので助成率は75%。つまり300万円の投資に対して225万円が助成され、実質的な負担は75万円だけで済むのです。
多くの成功企業に共通するのは、社会保険労務士などの専門家を上手に活用していることです。申請にかかる手間を最小限に抑えながら、成功率を最大限に高める。その費用を含めても、得られる助成金額を考えれば十分にペイする投資といえるでしょう。
5年後のあなたの会社を想像してください
政府は最低賃金を全国平均1,500円まで引き上げる目標を掲げています。これは確実にやってくる未来です。その時、あなたの会社はどうなっているでしょうか。
賃上げに苦しみ、設備は古いまま、人材も定着しない会社になっているか。それとも、最新設備で高い生産性を実現し、優秀な人材が集まる地域のリーディングカンパニーになっているか。その分かれ道は、今この瞬間の決断にかかっています。
業務改善助成金は、単なる補助制度ではありません。これは、あなたの会社を次のステージに導く成長投資プログラムなのです。賃上げを「避けられないコスト」と捉えるか、「成長への投資機会」と捉えるか。この視点の違いが、5年後、10年後の企業の姿を決定づけます。
第2期申請の期限まで、まだ時間があります。このチャンスを逃すことなく、ぜひ一歩を踏み出してください。信頼できる社会保険労務士に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。プロのサポートを受けることで、確実な助成金獲得と、それ以上に価値のある経営革新を実現できるはずです。