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2025.06.21

経営者のための問題社員対処法

〜法的リスクを避けながら円滑に解決する実践的アプローチ〜

はじめに

「あの社員の態度が他のスタッフに悪影響を与えている…」 「指導しても改善されず、もう限界だ…」 「法的に問題なく対応する方法が分からない…」

このような悩みを抱える経営者の方は決して少なくありません。問題社員への対応は、企業経営において避けて通れない重要な課題の一つです。

当事務所では、多くの企業様から問題社員に関するご相談をお受けしております。適切な対応を行えば必ず解決できる問題ですが、法的知識なしに感情的に対処してしまうと、かえって大きなリスクを背負うことになりかねません。

今回は、問題社員への段階的な対処法について、法的観点から解説いたします。


1. まずは「問題社員」を正しく理解する

問題社員とは

勤務態度や能力、協調性などに問題があり、企業の秩序を乱したり業務に支障をきたしたりする社員のことです。以下のようなタイプに分類されます:

  • 能力不足型: 業務スキルが著しく不足し、指導しても改善が見られない
  • 協調性欠如型: 自己中心的でチームワークを軽視する
  • 勤怠不良型: 遅刻、早退、無断欠勤を繰り返す
  • ハラスメント型: 他者に精神的・肉体的苦痛を与える
  • 反抗型: 上司の指示に従わず、常に批判的

なぜ早期対応が重要なのか

問題社員を放置すると、以下のような深刻な影響が生じます:

  • 他の従業員のモチベーション低下
  • 職場全体の生産性悪化
  • 優秀な人材の離職
  • 企業の信用失墜
  • 法的トラブルのリスク増大

2. 初期対応:証拠収集と記録の重要性

問題社員への対応で最も重要なのは、客観的な証拠を残すことです。

記録すべき内容

  • 日時・場所: いつ、どこで問題行動があったか
  • 具体的な言動: 「~と発言した」「~という行動をとった」など事実のみ
  • 周囲への影響: 他の社員や業務への具体的な影響
  • 指導内容と反応: どのような指導を行い、どう反応したか

証拠となる資料

  • メールやチャットの履歴
  • 第三者の証言(書面で)
  • 業務成果物
  • 勤怠記録

重要: 感情的な表現は避け、客観的事実のみを記録してください。これらの記録は、後の懲戒処分や法的手続きの際に重要な証拠となります。


3. 面談と指導:適切な進め方

効果的な面談のポイント

  • 複数名で実施: 人事担当者と直属上司など、2名以上で行う
  • プライバシーの確保: 他の社員に聞かれない環境で実施
  • 具体的な指摘: 「いつも」ではなく「○月○日の○時に」と具体的に
  • 改善への期待: 問題点の指摘だけでなく、具体的な改善目標を設定
  • 面談記録の作成: 日時、出席者、内容、社員の発言を詳細に記録

書面による注意指導

口頭注意に加え、書面での指導も重要です。注意指導書には以下を記載:

  • 問題とされる具体的事実
  • 就業規則の根拠条文
  • 具体的な改善指示
  • 改善期限
  • 改善されない場合の措置予告

4. 懲戒処分:段階的な対応

指導にもかかわらず改善が見られない場合、懲戒処分を検討します。

懲戒処分の種類(軽いものから)

  1. 譴責・戒告: 始末書の提出
  2. 減給: 給与の一部減額(法的制限あり)
  3. 出勤停止: 一定期間の就労禁止
  4. 降格・降職: 役職や職位の引き下げ
  5. 諭旨解雇: 退職勧告、応じなければ懲戒解雇
  6. 懲戒解雇: 即時雇用契約解除

有効な懲戒処分の要件

  • 就業規則に明確な根拠があること
  • 懲戒事由に該当すること
  • 処分が重すぎないこと(相当性)
  • 適正な手続き(弁明機会の付与等)

注意: これらの要件を満たさない懲戒処分は無効となるリスクがあります。


5. 退職勧奨:慎重かつ適切な進め方

合法的な退職勧奨のポイント

  • あくまで「お願い」のスタンス
  • 退職勧奨に至った理由の丁寧な説明
  • 十分な検討時間の提供
  • 退職条件の提示(任意)
  • 面談記録の作成

絶対に避けるべき行為

  • 威圧的な態度や脅迫的言動
  • 長時間の拘束
  • 「辞めないと解雇する」などの脅し
  • プライベート情報を利用した説得

退職合意書の重要性

退職に合意した場合は、必ず退職合意書を作成してください。記載事項:

  • 退職日と退職理由
  • 退職金・給与等の支払い
  • 有給休暇の取り扱い
  • 秘密保持義務
  • 清算条項(将来の追加請求を防ぐ重要な条項)

6. 解雇:最終手段としての検討

普通解雇の要件

  • 客観的に合理的な理由: 能力不足、勤務態度不良等
  • 社会通念上の相当性: 解雇が妥当と認められること
  • 適正な手続き: 30日前の予告または予告手当の支払い

懲戒解雇の要件

普通解雇の要件に加え:

  • 就業規則上の明確な根拠
  • 重大な規律違反行為
  • より厳格な相当性の判断

不当解雇のリスク

解雇が無効と判断された場合:

  • 社員としての地位確認請求
  • 解雇期間中の賃金支払い義務
  • 慰謝料請求
  • 企業イメージの失墜

7. 当事務所からのアドバイス

専門家への相談時期

以下の場合は早急にご相談ください:

  • 懲戒処分を検討している
  • 退職勧奨を行う予定
  • 解雇を検討している
  • 社員から内容証明が届いた
  • 対応方法に迷いがある

予防策の重要性

  • 就業規則の整備: 時代に合った内容への更新
  • 管理職研修: 適切な指導方法の教育
  • 定期的な面談: 問題の早期発見
  • 社内相談窓口: ハラスメント等の早期対応

絶対に避けるべき対応

  • 「辞めさせ屋」などの違法サービスの利用
  • 感情的な対応
  • 証拠を残さない口約束
  • 就業規則を無視した処分

まとめ

問題社員への対応は、適切な手順を踏めば必ず解決できる問題です。重要なのは:

  1. 早期の証拠収集と記録
  2. 段階的な指導と改善機会の付与
  3. 法的要件を満たした適正な手続き
  4. 専門家との連携

感情的になりがちな問題ですが、冷静かつ計画的に対応することが、企業を守り、他の従業員を守ることに繋がります。

問題社員への対応は時間と労力がかかり、精神的にも負担が大きいものです。しかし、法的なリスクを管理しながら粘り強く対応することで、必ず解決の道は見えてきます。

適切な対応により、職場環境の改善と企業の発展を実現しましょう。