2025.08.28
従業員が逮捕された!そのとき会社が取るべき対応とは?
従業員の逮捕という事態は、どの企業にとっても突然訪れる可能性のある重大な問題です。このような緊急事態において、冷静かつ適切な初動対応ができるかどうかが、その後の企業リスクを大きく左右します。
本コラムでは、人事労務の観点から、法的に適切な対応手順と実務上の注意点をステップバイステップで解説します。
大原則:『逮捕=即解雇』は絶対NG!
まず最も重要な法的原則を理解しましょう。
推定無罪の原則と雇用への影響
「逮捕された」という事実は、「有罪が確定した」という意味ではありません。
逮捕はあくまで「犯罪の疑いがある」段階に過ぎず、裁判で有罪が確定するまでは、法的に無罪と推定されます(推定無罪の原則)。この大原則を無視して、「逮捕されたから」という理由だけで性急に解雇すると、不当解雇として訴訟に発展し、企業側が敗訴するリスクが極めて高くなります。
解雇が法的に認められるための要件
従業員の逮捕を理由とする解雇が有効と認められるには、以下のような厳格な要件を満たす必要があります。
懲戒解雇が認められるケース
- 企業の社会的評価を著しく傷つけた場合(例:役員による重大犯罪)
- 業務に直接関連する犯罪行為(例:経理担当者の横領)
- 企業秩序の維持に重大な支障をきたす場合
普通解雇が認められるケース
- 逮捕された事実により、会社と従業員の信頼関係が根本的に破壊されたと客観的に判断される場合
- 長期の服役などにより、労働契約の本来の目的である労務の提供が不可能になった場合
【ステップ別】従業員逮捕後の対応フロー
実際に事態が発生した際は、以下のステップに沿って冷静に対応を進めましょう。
STEP1:逮捕直後|冷静な事実確認と情報管理
1. 事実確認の徹底
- まずは憶測で動かず、正確な情報を収集します
- 逮捕の事実と、どのような容疑がかけられているのかを把握します
- 情報源(警察、本人、家族、弁護士など)の信頼性を確認し、得た情報は時系列で記録・保管しましょう
2. 情報管理体制の構築
- 社内での情報共有は、経営陣や人事責任者など、必要最小限の範囲に限定します
- 根拠のない噂が広まらないよう、外部への情報漏洩防止策を徹底し、対応窓口を一本化することが重要です
3. 当面の業務上の措置
- 本人が勾留されている間の勤怠の取り扱い(欠勤扱いが一般的)を決定します
- 担当業務の緊急引継ぎを行い、必要に応じて取引先などへは「担当者不在」として暫定的な対応を行います
STEP2:勾留期間中|状況把握と社内準備
給与の取り扱い
- 勾留期間中は労務の提供がないため、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、会社に給与を支払う義務はありません
- 無給の欠勤として処理するのが一般的です
継続的な情報収集
- 可能であれば弁護士を通じて、事実関係や勾留期間の見通し、起訴・不起訴の判断時期などを継続的に確認します
STEP3:処分決定後|起訴・不起訴で分かれる対応
起訴された場合
- 起訴された罪名と事実関係の詳細を改めて確認します
- その事実が会社に与える影響(信用の失墜、事業への支障など)を客観的に評価し、就業規則のどの条項に該当するかを照らし合わせ、処分の相当性を慎重に検討します
不起訴となった場合
- 不起訴処分(嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予など)となった場合は、原則として職場復帰が前提となります
- 本人の状況に配慮しつつ、スムーズに復帰できるよう職場環境を整えることも企業の務めです
解雇は可能?処分の判断ライン
実務上、解雇が有効か無効かの判断は非常に難しい問題です。ここでは一般的な傾向を解説します。
解雇が「不当」と判断される可能性が高いケース
- 私生活上の比較的軽微な犯罪(万引き、交通違反など)
- 会社の業務とは全く無関係な事件
- 初犯であり、本人も深く反省しているなど、情状酌量の余地がある場合
- 会社の事業や信用への具体的な悪影響がほとんどない場合
解雇が「有効」と判断されやすいケース
- 業務上の地位を悪用した犯罪(横領、背任など)
- 会社の信用を著しく失墜させるような重大な犯罪(殺人、強盗など)
- マスコミで大々的に報道され、企業のイメージが著しく傷ついた場合
- 実刑判決を受け、長期間の服役により労務提供が不可能となった場合
有罪確定後の処分検討
有罪判決が確定した場合でも、必ずしも解雇が妥当とは限りません。犯罪の性質や会社への影響度に応じて、適切な処分レベルを慎重に検討する必要があります。
解雇以外の懲戒処分
業務への影響が限定的で、解雇までは不相当と判断される場合の選択肢:
懲戒処分の段階
- 減給:一定期間、給与から一定額を差し引く
- 出勤停止:一定期間、出勤を禁じる(その間の給与は無給)
- 降格:役職や等級を引き下げる
人事上の措置
- 対外的な業務から内勤業務への配置転換
- より責任の軽い職務への変更
退職勧奨という選択肢
解雇という強硬な手段ではなく、従業員との合意に基づいて雇用契約を終了する「退職勧奨」も選択肢の一つです。
注意点
- あくまで退職を「お願い」するものであり、強制はできません
- 執拗に退職を迫る行為は「退職強要」とみなされ、違法となる可能性があります
- 本人が応じない場合は、他の適切な処分を改めて検討する必要があります
社内外への説明と情報管理
周囲への対応は、プライバシー保護と憶測の拡散防止を最優先に進めます。
他の従業員への説明
基本方針:プライバシーに最大限配慮し、憶測や噂が広まることを防ぎます。客観的な事実のみを、必要最小限の範囲で共有します。
説明内容例:「○○さんの件については、現在、会社として事実関係を確認中です。憶測での発言や噂を広めることは厳に慎んでください。通常業務に集中するようお願いします。」
取引先・顧客への対応
基本方針:業務の継続を最優先し、個人情報は保護します。説明は簡潔に、事実に基づいた内容に留めます。
説明例:「現在、担当の○○は都合により不在にしております。当面の間は、私△△が責任をもって対応させていただきます。」
【緊急時用】対応チェックリスト
万が一の際に、対応漏れを防ぐためのチェックリストです。
- 事実関係の正確な把握と記録
- 社内情報共有範囲の決定と徹底
- 就業規則の懲戒事由の確認
- 勾留期間中の勤怠・給与の取り扱い決定
- 業務引継ぎと顧客対応の指示
- 弁護士など専門家への相談と法的リスクの評価
- 処分内容の慎重な検討(事実と就業規則に基づく)
- 社内外への適切な説明の実施
- すべての対応経緯の記録と保管
まとめ:冷静な対応が企業と従業員を守る
従業員の逮捕は、企業にとってまさに危機管理能力が問われる事案です。しかし、法的原則を正しく理解し、決められた手順に沿って客観的な事実に基づいた冷静な対応を行うことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。
感情的な判断を避け、適切な手順で対応することこそが、最終的に企業の信頼性を維持し、すべての従業員の権利を守ることにつながります。