2025.07.23
育児介護休業法改正(令和7年10月)の要点と企業の実務対応
はじめに
令和7年(2025年)10月1日、育児・介護休業法が改正されます。この改正は、3歳以降の子を持つ労働者に対する支援制度を抜本的に変更し、これまでの「休業・時短中心」から「フルタイム勤務も可能な柔軟な働き方」への転換を求めています。
10月改正の核心:「柔軟な働き方」の義務化
制度の概要
令和7年10月1日より、3歳以上で小学校就学前の子を養育する労働者に対し、事業主は「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが義務付けられます。これは今回の改正の最大の目玉であり、企業には以下の対応が求められます。
重要ポイント:
- 事業主は5つの選択肢から2つ以上の措置を用意する義務
- 労働者はその中から1つを選択して利用
- フルタイム勤務も可能となる制度設計が必要
5つの選択肢とその詳細
a) 始業時刻変更等の措置
- フレックスタイム制(総労働時間の短縮がないもの)
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤、所定労働時間を短縮しないもの)
b) テレワークの措置
- 1日の所定労働時間の変更なし
- 週5日勤務の労働者は月間10労働日以上利用可能
- 時間単位での利用が可能(始業時刻から連続または終業時刻まで連続)
c) 育児のための短時間勤務措置
- 1日6時間とするものを含むもの
d) 養育両立支援休暇
- 1日の所定労働時間の変更なし
- 年間10労働日以上取得可能
- 時間単位での利用が可能
- 取得理由は労働者の自由(子の養育に資するものであれば可)
e) その他省令で定める措置
なぜこの改正が必要なのか
従来の育児支援制度は、主に3歳未満の子を対象とした休業・時短勤務が中心でした。しかし、子が3歳以上になると、多くの労働者がフルタイム勤務での両立を希望するようになります。この改正は、そうした労働者のニーズに応え、キャリア継続と育児の両立を実現するためのものです。
個別対応の義務化:きめ細かな支援体制の構築
1. 個別の周知・意向確認
対象者: 3歳に満たない子を養育する労働者 実施時期: 子が3歳になるまでの適切な時期(子の3歳の誕生日の1か月前までの1年間)
周知内容:
- 柔軟な働き方を実現するための措置(制度)の内容
- 措置(制度)を利用する場合の申出先
- 所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限に関する制度
実施方法:
- 面談(オンライン含む、定期的な人事面談との併用可)
- 書面の交付
- 労働者希望により、FAX・電子メール・SNSメッセージ等での送信も可能
2. 就業条件等の個別の意向聴取と配慮
実施タイミング:
- 労働者からの本人又は配偶者の妊娠・出産等の申出時
- 子が3歳になる前の適切な時期
意向聴取の内容:
- 始業および終業の時刻
- 就業の場所
- 両立支援制度等の利用期間
- その他職業生活と家庭生活との両立の支障となる事情の改善に資する就業に関する条件(業務量、労働条件の見直し等)
配慮の具体例:
- 勤務時間帯・勤務地の調整
- 業務量の調整
- 両立支援制度等の利用期間等の見直し
- 労働条件の見直し
重要な注意点:
- 必ず労働者の希望を叶える義務ではない
- ただし、対応が困難な場合は理由を説明するなど丁寧な対応が必要
- 聴取した意向を理由とする不利益取扱いは禁止
企業が今すぐ着手すべき実務対応
STEP1:制度設計の検討(~令和7年8月)
1. 現状把握と制度選択
- 自社の既存制度の棚卸し
- 5つの選択肢から2つ以上を選択
- 業務の性質・実施体制を考慮した制度設計
- 労働条件・待遇の検討
2. 過半数労働組合等との意見聴取
- 労働者代表との協議
- 従業員アンケートの実施
- 制度内容の最終決定
STEP2:体制構築(~令和7年9月)
1. 就業規則の改定
- 新制度の規定化
- 申請手続きの明文化
- 労働条件・待遇の明確化
2. 運用体制の整備
- 申請書式の作成
- 個別周知・意向確認の実施体制構築
- 管理システムの整備
3. 研修・周知の実施
- 管理職向け研修
- 人事担当者向け研修
- 全従業員への制度周知
STEP3:運用開始準備(~令和7年10月)
1. テスト運用の実施
- 制度の試行実施
- 問題点の洗い出し
- 運用マニュアルの整備
2. 最終チェック
- 法令遵守状況の確認
- 運用体制の最終点検
成功のカギ:経営戦略としての位置づけ
この改正への対応を単なる法的義務と捉えるのではなく、戦略的な人材マネジメントとして位置づけることが重要です。
期待される効果:
- 優秀な人材の定着率向上
- 多様な働き方による生産性向上
- 企業の魅力度・競争力向上
- イノベーション創出の促進
- 持続可能な成長基盤の構築
風土づくりのポイント:
- 管理職の意識改革
- 同僚間の相互理解促進
- 業務プロセスの見直し
- 評価制度の見直し
- 組織全体での支援文化の醸成
おわりに
令和7年10月施行の育児・介護休業法改正は、日本の働き方に新たなパラダイムをもたらします。この改正は、企業にとって短期的には対応負担となりますが、中長期的には競争優位の源泉となり得ます。
準備期間は限られていますが、計画的かつ戦略的に取り組むことで、法令遵守と経営効果の両立が可能です。従業員一人ひとりが能力を最大限発揮できる職場環境の構築に向け、今こそ行動を起こす時です。
具体的な制度設計や運用については、各企業の実情に応じたきめ細かな検討が必要です。社会保険労務士等の専門家と連携し、自社に最適な両立支援体制の構築を進めることをお勧めいたします。