2025.06.19
熱中症対策義務化から3週間!今こそ見直すべき運用のポイント
はじめに – 義務化施行から見えてきた現実
経営者の皆様、2025年6月1日に熱中症対策が法的義務化されてから3週間が経過しました。この期間で、準備が十分だった企業とそうでない企業の差が明確に現れ始めています。
本格的な夏季を迎える前の今このタイミングで、自社の熱中症対策の運用状況を見直し、必要な改善を図ることが極めて重要です。
令和6年の熱中症による休業4日以上の死傷災害は1,195人と調査開始以来最多となった現実を踏まえ、「形だけの対策」では企業の存続に関わるリスクとなりかねません。
今回のコラムでは、施行後の運用実態を踏まえ、経営者が今すぐ確認すべきポイントと改善策について解説します。
施行後3週間で見えてきた「対応格差」
成功企業の共通点
施行後の運用がスムーズな企業には、以下の共通点が見られます。
1. 事前準備の徹底
4月から具体的な体制整備を開始
作業者への周知を段階的に実施
実際の運用を想定したシミュレーション実施
2. 現場との密接な連携
管理層と現場の定期的な情報共有
作業者からのフィードバックを積極的に収集
問題発生時の迅速な改善対応
3. 継続的な見直し体制
日々の運用状況の記録・分析
気象条件に応じた柔軟な対応
他社事例や最新情報の積極的収集
課題を抱える企業の特徴
一方で、運用に課題を抱える企業には以下の傾向があります。
1. 形式的な対応
手順書は作成したが、現場への浸透が不十分
報告体制が機能していない
実際の熱中症発生時の対応が曖昧
2. 対象作業の見落とし
屋内作業は対象外と誤解
短時間作業の積み重ねを軽視
移動時間や出張先での作業を見落とし
3. 経営層の関与不足
現場任せで経営層の監督が不十分
予算配分や人員配置が適切でない
問題発生時の対応が後手に回る
今すぐ確認すべき「5つのチェックポイント」
チェック1:報告体制は実際に機能しているか?
▼確認項目
作業者が報告先を正確に把握している
報告を受ける責任者が確実に対応できる体制にある
報告から対応までの時間が適切(目安:5分以内)
報告内容が適切に記録・保存されている
▼改善のポイント
連絡先の掲示だけでなく、実際に報告訓練を実施し、機能することを確認しましょう。
チェック2:対応手順は現実的で実効性があるか?
▼確認項目
身体冷却の具体的方法が現場で実行可能
医療機関への連絡先が最新で確実
作業離脱から復帰までの判断基準が明確
緊急時の代替要員確保の仕組みがある
▼改善のポイント
机上の計画ではなく、実際の作業環境で手順が実行可能かを検証してください。
チェック3:WBGT値の測定・評価は適切に行われているか?
▼確認項目
測定器の設置場所が適切(作業場所の代表点)
測定頻度が十分(少なくとも1時間ごと)
基準値超過時の対応が迅速に実行されている
天気予報やアプリの活用も適切に併用している
▼改善のポイント
屋外作業では環境省の熱中症予防情報サイトの活用も有効です。
チェック4:作業者への周知は十分に浸透しているか?
▼確認項目
全作業者が報告体制を理解している
熱中症の症状と対応方法を把握している
自覚症状の重要性を認識している
バディ制やウェアラブルデバイスが効果的に活用されている
▼改善のポイント
朝礼での確認だけでなく、実際の理解度テストや抜き打ちチェックを実施しましょう。
チェック5:混在作業での連携は取れているか?
▼確認項目
元方事業者と関係請負人の役割分担が明確
共通の緊急連絡先が全作業者に周知されている
情報共有の仕組みが機能している
責任の所在が明確で迅速な対応が可能
▼改善のポイント
建設現場等では、関係者全員が参加する定期的な安全会議で情報共有を徹底してください。
本格的な夏季に向けた「緊急改善策」
即効性のある改善策(今週中に実施)
1. 緊急連絡網の再確認
全作業者の連絡先更新
責任者の代理体制確立
医療機関の夏季体制確認
2. 冷却設備の点検・増強
エアコン・冷房設備の点検
冷却材・経口補水液の在庫確認
ミストファンやスポットクーラーの追加検討
3. 作業スケジュールの見直し
高温時間帯の作業回避
休憩時間の延長・頻度増加
作業ローテーションの最適化
中期的な改善策(7月末までに実施)
1. ウェアラブルデバイスの本格導入
心拍数・体温モニタリング
アラート機能の活用
データ分析による予防強化
2. 休憩施設の充実
冷房完備の休憩スペース拡充
体を冷やすための設備導入
栄養補給環境の整備
3. 教育・訓練プログラムの強化
熱中症対応の実技訓練
管理者向け専門研修
外部専門家による指導
労働基準監督署の指導動向と対策
重点指導項目
施行後の労働基準監督署による指導では、以下の点が重視されています:
1. 体制整備の実効性
形式的な手順書作成だけでなく、実際の運用状況
作業者の理解度と実際の報告状況
記録の保存と改善への活用状況
2. 対象作業の適切な把握
WBGT値・気温の正確な測定
作業時間の適切な管理
見落としがちな作業の洗い出し
3. 混在作業での責任体制
元方事業者と関係請負人の連携状況
情報共有の仕組みと実効性
緊急時の対応体制
指導を受けないための予防策
- 自主的な内部監査の実施
- 外部専門家による第三者チェック
- 他社の優良事例の積極的な収集・導入
- 業界団体との情報共有強化
夏季本番に向けた経営判断
投資すべき優先順位
限られた予算の中で最大の効果を得るための投資優先順位:
第1優先:人命に直結する設備
WBGT測定器の精度向上・増設
緊急時の冷却設備
通信機器の確実性向上
第2優先:予防効果の高い設備
作業環境の改善(遮熱・通風)
休憩施設の充実
ウェアラブルデバイス
第3優先:効率化・省力化設備
自動監視システム
データ分析ツール
教育用コンテンツ
ROI(投資対効果)の考え方
短期的効果(今夏)
熱中症事故の防止
労働基準監督署からの指導回避
作業効率の維持・向上
長期的効果(来年以降)
企業ブランドの向上
優秀な人材の確保・定着
取引先からの信頼獲得
ESG経営の推進
まとめ – 今こそ「真の安全経営」への転換を
熱中症対策義務化から3週間が経過した今、企業間の対応格差が明確になっています。
本格的な夏季を迎える前の今このタイミングが、対策を見直し、改善を図る最後のチャンスです。
重要なのは「完璧を目指すより、継続的改善」です。現在の運用状況を正直に評価し、問題があれば迅速に改善する。
そのサイクルを回し続けることが、真の安全経営につながります。
また、この義務化を単なるコンプライアンス対応ではなく、「従業員の生命と健康を最優先とする企業文化の構築」の機会と捉えることが重要です。
従業員一人ひとりが安心して働ける環境を提供することは、経営者の最も重要な責務です。
今夏の対策を通じて、真に従業員を大切にする企業として、さらなる成長を遂げていただくことを心から願っています。