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2025.06.18

「退職勧奨」と「解雇」の決定的な違いを知っていますか?

企業経営者が知らないと危険な労務リスクの境界線

経営者の皆さんは、人員整理やパフォーマンス不足の従業員への対応で頭を悩ませたことはありませんか?「この人には辞めてもらいたいけれど、どう進めればいいのだろう」と迷われる経営者は決して少なくありません。

実は、この判断を誤ると「不当解雇」や「退職強要」として深刻な労務トラブルに発展し、企業の存続を脅かす大きな経営リスクとなります。今回は、多くの経営者が混同しがちな「退職勧奨」と「解雇」の法的な違いを明確にし、安全な人事対応のポイントをお伝えします。

退職勧奨と解雇は「全く別物」です

まず押さえていただきたいのは、退職勧奨と解雇は法的に全く異なる手続きだということです。

退職勧奨は従業員の「合意」を得て労働契約を終了させる手法です。あくまで企業からの「お願い」であり、従業員には拒否する権利があります。従業員の自由な意思に基づく同意があって初めて退職が成立するのです。

一方、解雇は企業による「一方的な」契約解除通知であり、従業員の同意は不要です。しかし、労働契約法第16条により「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効とされ、極めて厳しい法的制約が課せられています。

退職勧奨を進める際の「絶対ルール」

退職勧奨は解雇よりも安全な手法ですが、進め方を誤れば「退職強要」という違法行為になってしまいます。以下の基本原則を必ず守ってください。

従業員の自由な意思を何より尊重する

最も重要なのは、いかなる場面でも従業員の自由な意思決定を尊重することです。退職勧奨は対等な立場での「対話」の申し入れであることを忘れてはなりません。

誠実な説明と適切な環境づくり

なぜ退職を検討してほしいのか、その理由を誠実に説明する姿勢が求められます。面談は従業員のプライバシーが守られ、心理的な圧迫感のない環境で行う必要があります。長時間の面談や多人数で取り囲むような状況は絶対に避けてください。

十分な検討期間を与える

退職という重要な決断をその場で迫ることは許されません。「十分に検討してください」と伝え、従業員が冷静に考えるための期間を十分に与えることが不可欠です。

これをやったら「アウト」な言動

以下の行為は「退職強要」や「パワハラ」と見なされ、企業に深刻な法的リスクをもたらします。

  • 「応じなければ解雇する」「懲戒処分にするぞ」といった脅迫
  • 「君は能力がない」「会社のお荷物だ」など人格を否定する発言
  • 明確に拒否されているのに何度も面談を強要
  • 無理やり退職届を書かせる
  • 仕事を与えず孤立させる、嫌がらせ目的の配置転換

これらは企業のコンプライアンス上、決して許されません。

退職勧奨を拒否された時の正しい対応

従業員には退職勧奨を拒否する権利があります。拒否された後の対応こそ、企業の遵法意識が問われるポイントです。

まずは従業員の意思を尊重し、勧奨を中止してください。報復的な不利益取扱いや執拗な勧奨の継続は絶対にNGです。引き続き通常通りの業務を継続させ、勤務環境を悪化させないよう配慮します。

どうしても雇用継続が困難な客観的・合理的な理由がある場合は、自己判断で次のステップに進むのではなく、必ず弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談し、法的リスクを慎重に検討してください。

まとめ:予防法務こそ最強の企業防衛策

退職勧奨と解雇は似て非なる全く別の手続きです。解雇の法的ハードルが極めて高いことを認識し、退職勧奨を検討する際は従業員の自由な意思を尊重するという大原則のもと、誠実な対話を通じて円満な合意形成を目指すことが企業防衛の鉄則です。

労務トラブルを未然に防ぐには専門家への早期相談が不可欠です。安易な判断や対応に少しでも不安を感じた場合は、問題が深刻化する前に躊躇なく専門家にご相談ください。予防法務の観点から早期に対策を講じることが、最終的に企業を守る最善の策となります。